症状
右肩鎖関節脱臼手術後の肩関節周囲の痛みと可動域制限
1年前、スノーボード中に転倒し、肩鎖関節を脱臼し手術を行ったが、肩関節の可動域が現在も制限され、動作時の痛みもある。
所見
- 右肩関節の水平内転が80度程度で制限され、肩関節前方後方に痛み
- 右手で左の耳が触れられない状態
- 結髪動作(外転外旋)で肩関節後方に痛み
- 肩関節前方に軽度の腫れ、熱感あり
- 棘下筋、小円筋、大円筋の筋緊張あり
施術1回目
仰臥位で肩甲下筋への刺鍼を行うか迷ったが、肩関節後方の緊張が強かったので、初回は伏臥位にて刺鍼を行う。
刺鍼部位
- th7~後頭下縁までの夾脊穴
- 棘下筋
- 肩甲下筋
胸椎、頸椎の夾脊穴に筋緊張は見られなかった。
肩甲下筋への刺鍼で強い得気があり、置鍼中に筋の痙攣がみられた。
鍼の刺激による痛み、倦怠感がある為、抜針直後に効果の確認はできず。
施術2回目
一週間後に来院。
前回施術後、翌日から可動域が広がり、痛みも減少したとのこと。
目視で確認できるほど、棘下筋大円筋の緊張が低下している。
刺鍼部位
- 棘下筋
- 肩甲下筋
- 棘上筋
- 肩鎖関節付近の手術痕近辺
前回筋緊張、得気がなかったため夾脊穴への刺鍼は今回省略。
棘上筋と肩関節前方付近の刺鍼を追加。前回は肩甲下筋の得気が強かったため、棘下筋と肩甲下筋への刺鍼に留めたが、多少痛みがあっても早く治したいとの本人の希望もあり、刺鍼の範囲を広げた。
棘上筋、肩関節前方の肩甲下筋付着部付近にも筋緊張と得気あり。
施術3回目
4日後に来院
結髪動作での肩関節後方に生じる痛みはほとんど感じない。
水平内転の可動域も改善し、手掌で反対側の耳を触ることができる。
刺鍼部位
前回と同様
- 棘下筋
- 肩甲下筋
- 棘上筋
- 肩鎖関節付近の手術痕近辺
肩関節周囲の緊張は全体的に低下しており、得気も少なくなっている。刺鍼状態での筋の痙攣も見られない。
考察
本患者は格闘技系スポーツも日常的に行っているとのことで、術後の患部が十分に治癒しないまま関節を酷使してしまったため、症状が長期間残ってしまっていた。
また、スノーボードでの技の練習で転倒が避けられないとのことで、拘縮した肩関節周囲の筋肉に強い負荷がかかることで、脱臼の患部とは直接関係のない部位にも障害が生じたと考えられる。
脱臼や骨折後は患部周辺に循環障害が起こるため、周辺の筋、関節に痛みや機能障害が生じる。安静を保てれば、ほとんどが自然に治癒する場合が多いだろう。しかし日常生活で負荷がかかったり、スポーツで過度に使用したりすることで、後遺症が長引く可能性がある。
鍼を刺しても、骨がつながったり、壊れた関節が修繕されるわけではないので、鍼が骨折捻挫脱臼などに効果があるとは一般的に認知されていない。骨折捻挫脱臼を起こすと、骨だけでなく、周辺の筋、靭帯も一緒に損傷され、炎症が起こる。炎症が起こると循環障害が起き、痛みが発生し、機能障害が起こる。しかもこれらの症状は骨が癒合した後も残り、日常生活に支障をきたすことがある。
鍼には炎症を鎮め、局所の循環を改善し、鎮痛する効果があるため、日常生活や競技に早期復帰することが可能となる。けがをした後は早い段階で刺鍼を行うことで、組織の回復を早め、後遺症を減らすことができる。