温湿布と冷湿布どっちを使ったらいい?なぜ湿布は効くの?【腰痛・肩こり・慢性痛】

慢性的な肩こり、腰痛などで体の痛みにお悩みの方にとって、湿布は身近な存在です。急に体が痛くなった時にとりあえず湿布を貼って様子を見てみるという方も多いのではないのではないでしょうか。

当院に来院される方にも、とりあえず湿布を貼って様子を見ていたのですが、なかなか良くならなくて。。なんていう方もよくいらっしゃいます。大量の湿布を日常的にあちこちに貼っている高齢者の方をお見掛けすることもあります。

今回はたまに質問を頂く「温湿布と冷湿布どちらを使ったらよいか」についてと、「なぜ湿布は効くのか」などの湿布についての豆知識をご紹介します。

温・冷どちらを使ったらよいか

一般的に急性症状は冷やして、慢性症状は温めるという認識がされていますが、湿布の使い分けに関しては、あまり関係ないと私は考えています。

結論から言えば温湿布でも、冷湿布でも治癒に大きな影響はないので、好きな方、気持ちよい方を貼ればいいです。

なんとも無責任な感じになってしまいましたが、なぜこのような結論に至るのかについて以下で説明していきたいと思います。

そもそも湿布はなぜ痛みに効くのか

湿布には消炎鎮痛剤の成分と、皮膚を刺激(温感、冷感)する成分が含まれており、それらが痛みを和らげる働きをしています。

冷却作用はほとんどない

貼る面がプルプルのゲル状になった湿布をパップ剤といいます。このパップ剤は水分を多く含むため、気化熱による冷却効果が多少はあると言われています。しかし湿布の気化熱による冷却効果程度では、深部まで冷やしたり、冷感を得たりするほどには冷えることはないので、気休め程度かと思います。

ペラペラの薄い湿布をテープ剤と言いますが、水分をほとんど含まないため、気化熱による冷却効果はありません。冷たい感じがするのは冷感成分が含まれているためです。

冷感、温感湿布が冷たく、温かく感じるのは脳を勘違いさせているから

冷感湿布

冷感湿布を貼った時に感じる冷感は主にメントールによるものです。メントールによる冷感は実際に皮膚温度が下がるわけではなく、冷感を感じる神経を刺激することにより起こっています。温度が低下するわけではありませんが、清涼感を与えることにより痛みを和らげています。

温感湿布

温感湿布の場合はトウガラシの辛み成分であるカプサイシンが使われています。カプサイシンは43℃以上の温度変化を感じるための神経を刺激するため、温感を生じます。こちらも実際に温度が上昇しているわけではなく、脳が熱いと勘違いをしているような状態です。

カプサイシンの鎮痛効果は古来より知られており、湿布以外に神経障害性疼痛の治療などにも利用されています。

カプサイシンによる鎮痛効果は、 カプサイシンに反応した神経がその後、他の侵害刺激に対する感受性が低下することにより起こっているものと考えられています。

結局、温感と冷感をどう選べばいいの?

温感と冷感を生じさせる成分は痛みの感じ方を和らげてくれますが、痛めた個所が治っていくスピードに影響を及ぼしません。どちらを使ったとしても、治るまでの期間に変化はありません。

痛めた部位が自己治癒力で治っていく間、なるべく痛みが少なく過ごせるように使うものが湿布です。なので温冷どちらを使うべきかと聞かれたら、気持ち良い方を使ってくださいという回答になります。

メントールのひんやり感やカプサイシンの熱感は好みが分かれると思いますので、どちらも試してみて心地よい方を使ってみてください。

メントールやカプサイシンの含まれない湿布もありますので、ひんやり感やカプサイシンの熱感が苦手な方は、こちらを使用するといいかもしれません。

湿布に含まれる消炎鎮痛成分

一般的に使用されている湿布には非ステロイド性抗炎症薬( NSAIDs )が含まれています。患部の痛みを和らげる効果は主にこの成分の働きによるものです。

配合されている成分には次のようなものがあります。

ボルタレン、ロキソニン、インドメタシン、フェルビナク、アスピリンなどです。飲み薬の鎮痛薬でお馴染みの成分もあります。

消炎鎮痛剤が痛みを和らげる仕組み

身体の組織が損傷すると炎症が起こり、発痛物質や発痛増強物質(プロスタグランジン)が作られます。発痛増強物質は炎症を促進させたり、痛みを感じるセンサーの感度を高めたりします。体を痛めたり、ケガをしたりした当初はそれほど痛くなくとも、だんだん痛みが増してくるのはこれらの働きによります。

そして湿布に含まれる消炎鎮痛剤は発痛増強物質(プロスタグランジン)が作られることを防ぐことにより、痛みを緩和させています。

消炎鎮痛剤が組織を修復したり、修復を促進したりすることはありません。あくまでも、痛みを和らげる効果があるということです。この点については多くの方が誤解されていると思います。

つまり湿布は自己治癒力で治る過程で生じる痛みを和らげるためのものだということです。

痛みは大変不快なものですから、湿布や消炎鎮痛剤の内服薬などで、痛みをコントロールしながら生活することは有効な手段です。しかし、薬の効果を理解せずに使用していると、本来使用する必要のない薬を使い続けることになりかねません。

慢性的な痛みや、神経痛などでは消炎鎮痛剤が効かないこともあります。効かないのにとりあえず湿布を貼っているという方もいますが、それはお勧めしません。湿布は身近な薬ですが、内服薬と同様に副作用もありますので、効果がないのに使い続けるのは止めましょう。

湿布の副作用

前項では湿布に含まれる消炎鎮痛剤がどのようにして痛みを和らげるのかを紹介しました。痛みのセンサーを敏感にする役目のある「プロスタグランジン」が作られることを防いでくれるのが、消炎鎮痛剤です。

痛みの感じ方を高めてしまうプロスタグランジンは、一見すると悪者のように感じられますが、実は人間にとって必要不可欠な存在です。プロスタグランジンの働きについて、少し引用します。

これらの機能には、循環器・消化器・骨の恒常性維持、卵巣や子宮といった生殖器の機能、局所炎症に伴う血管透過性亢進や疼痛惹起、細胞性免疫応答、睡眠、疾病時の発熱や内分泌応答、神経変性疾患や脳虚血に伴う神経細胞死、脳機能的充血、シナプス可塑性や記憶学習、心理ストレス下での情動制御などが含まれる。

北岡 志保 プロスタグランジン 10.14931/bsd.2343

このようにプロスタグランジンには様々な生理機能がありますので、プロスタグランジンが作られることを妨げてしまうことにより、体にとって不都合な症状が起きてしまうことがあります。胃腸障害や腎機能障害がよく知られています。また、湿布特有の副作用としては、皮膚のかぶれがみられます。

でも湿布なら患部に成分が届くわけだから、胃腸や腎臓には関係ないのでは?と思われる方もいるかもしれません。

湿布に含まれる有効成分は良くも悪くも全身に作用します。皮膚から吸収された薬剤は血管内に入り、全身に運ばれるためです。

身近な薬である湿布でも、体質、体調、使い方によっては副作用が出ることがあります。添付の注意事項や、薬の説明書には必ず目を通す必要があります。

副作用のない薬はありません。長期間にわたって使用する場合は特に注意が必要です。

湿布薬を使うメリット

次に鎮痛薬として湿布を選択することのメリットについて考えていきます。

手軽

これについては説明不要ですね。

効き方が穏やかで効果が長時間継続する

貼り薬の場合、貼っている間常に薬剤が体内に入り続けるため、血中や患部の薬剤濃度が一定量にキープされることになります。そのため安定的な効果が得られます。また、飲み薬に比べ薬剤が血中に移行するスピードが遅い為、効き方が緩やかです。

飲み薬の場合、服薬後すぐに血中の薬剤濃度が最高に達し、その後徐々に代謝されていきます。

血管が少ない関節内にも成分が届く

関節内には血管が少ない為、経口摂取で血中の薬物濃度が高まっても、関節内に成分がなかなか届きません。湿布の場合は皮膚から吸収された成分が、関節内まで浸透するため、経口摂取に比較して、関節内の成分濃度が高まりやすいです。

副作用が少ない

鎮痛薬に関する研究で、急性筋肉損傷、変形性関節症の痛みに対して、内服薬と湿布が同等の効果があり、湿布の方が胃腸障害が少ないとの研究報告があります。

内服薬の場合一定の血中濃度を確保するために、湿布と比べて多量の成分を一度に摂取することになります。経口摂取した成分は胃腸で吸収され、肝臓に到達して一部代謝された後に残りが全身の血流にのることになります。そのため、肝機能が低下していたり、アルコールや他の薬物と一緒に摂取することで、薬剤の代謝がスムーズに行われず、副作用が出やすくなります。

湿布の場合、一部の成分は血管を介さずに組織に浸透するため、患部の薬剤濃度に比較して、血中の薬剤濃度が低くなり、副作用が出にくいと考えられます。

終わりに

今回は温湿布、冷湿布どっちがいいの?という質問に対してずいぶん長々とした説明になってしまいました。要点だけ挙げるなら

  • 気持ちいい方を使えばよい
  • 痛み止めなので、治す作用はない
  • 貼っても大して効いてないなら、使い続けないで
  • 湿布も立派な薬。副作用もあるので注意

今回記事を作成するにあたって、湿布について改めて調べて感じたこと

湿布の成分はきちんと患部に届いている

関節内の薬剤濃度に関しては、内服薬より湿布の方が上だということについて初めて知り、驚きました。これまでの私のイメージでは、皮膚から吸収された成分のほどんどがすぐに血管内に入り全身に運ばれると思っていたからです。

腰痛には鎮痛剤が効きにくい

調べていると、腰痛に関して湿布の有効性が認められないという論文がありました。

先ほどの関節内の薬剤濃度を測定した研究では膝関節が対象になっていました。膝関節の場合は皮膚から関節までの距離が近い為、成分がすぐに関節内に到達しそうに感じます。腰の場合は関節までの距離が遠く、また障害の起きやすい横突起付近や大腰筋までの距離が皮膚から遠いため、経皮吸収型製剤だと患部の薬剤濃度が十分に高まら無い為、十分な鎮痛に至らないのではないかと推測します。

また慢性腰痛ではそもそも経皮、経口ともに鎮痛剤が効かないケースも多く見られます。鎮痛剤が効くのは、患部に炎症があり、プロスタグランジンにより痛みの感受性が高まっているタイプの痛みです。つまり炎症が少なくプロスタグランジンによる痛みの修飾がない痛みには、鎮痛剤が効かないということです。例えば、血流の停滞によるPHの低下や絞扼性神経障害による痛みです。

研究結果はともかくとして、湿布がよく効く人が存在する

それでも湿布を腰に貼ると効くという声も効きます。それは次の可能性が考えられます。

  • プラセボ効果
  • 比較的表層の筋の損傷に由来する腰痛
  • 血流にのった成分が患部に届き、効いた

浅層の筋肉であれば薬剤が十分な濃度で浸透できますし、損傷部位が筋肉であれば関節に比べて血管が豊富なため、薬剤が血流にのって届きますので湿布が効くのではないかと思います。

鍼も世間では一時的な作用しかないと思われている部分もありますが、薬剤とは違った形で消炎鎮痛を行い、血流の改善効果もあるため、早期治癒が望めます。また重篤な副作用が起きないのも鍼の良さかと思います。

しばらく鎮痛剤や湿布を使っても症状が改善されない場合は、ぜひ鍼治療を受けてみてください。

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